法然の生涯(七)アジャセ王子の出生

こんにちは。左大臣光永です。先日秋葉原に行った時、駅の構内のフードバーに入ってみました。食事するエリアの周囲を取り巻くように讃岐うどんやトンカツ、パスタの売り場が並んでいて、学食みたいな雰囲気です。近場でありながら、なんとなく旅の情緒がこみ上げ、ワクワクしました。高速道路のサービスエリアのワクワク感に通じるものがありました。

さて本日は…発売中の商品
「聴いて・わかる。日本の歴史~院政と武士の時代」にあわせ、
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「法然の生涯」をお送りしていますが、

本日は第七回「アジャセ王子の出生」です。

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43歳で比叡山を下りるまで法然は比叡山黒谷でひたすら学問研究に打ち込みました。しだいに法然は『観無量寿経』そして、その注釈書である『観経疏』にひきつけられていきました。

経典『観無量寿経』は「王舎城の悲劇」を中心に、仏教でいう最大の罪…五逆罪を犯した者
が、どうやって罪許され極楽浄土に到るのかを説いています。

2600年前の古代インドのマガダ国。王子アジャセは悪友ダイバダッタにそそのかされ、父である国王ビンビサーラを殺害し、母である王妃イダイケを牢屋に閉じ込めました。

子が父を殺し、母を閉じ込める。なぜこんな悲劇が起こったのか?『観無量寿経』にその詳しい原因は示されていませんが、『観無量寿経』の注釈書『観経疏』には、アジャセ王子の出生にまつわる物語が語られています。

出生の秘密

釈迦の晩年のこと、ガンジス川にほど近いマガダ国で、釈迦は日々説法をしておられました。

「ああ…世尊の話はなんと胸を打つのだろう! 」
「はい。たいへんいいお話ですわね」

国王ビンビサーラと王妃イダイケも、熱心な釈迦の信者でした。たくさんの聴衆にまじって、たびたび釈迦の説法を聞きにきていました。

さてビンビサーラ王とイダイケ王妃には悩みがありました。子供が生れなかったのです。ほうぼうに人をやって、あらゆる神々に祈りを捧げましたが、イダイケ王妃が子供を授かる様子はありませんでした。

そこで占い師に占わせたところ、

「近くの山に仙人が住んでおります。その者は三年のうちに死にます。そうしたら、あなた様の子となって、生まれ変わるでしょう」

「ほう」

すぐに家来を山にやって調べさせた所、事実、仙人が住んでいました。三年待てばいいのだ。王は希望が見えてきました。しかし…王は思うのでした。

「私はもう歳だ。三年のうちに寿命が尽きるかもしれない。
そうなったら跡継ぎのいない我が国はどうなる?三年。とても待てない」

最初の罪

ビンビサーラ王はふたたび仙人のもとに家来を遣わします。

「「三年はとても待てないから、今死んでくれ」…
王はそうおっしゃっております」

「な…ばかなことを言わないでください。いくら国王の頼みでも。
三年で私の寿命は尽きるのです。
どうかそれまで、待ってください」

家来は戻ってきて仙人の言葉を王に伝えました。

「なに断る!この国の王は私だぞ。断るとはけしからん。
もう一回頼んでこい。もしまた断ったら、殺してしまえ」

使者はふたたび仙人のもとに飛びます。

「「三年はとても待てないから、今死んでくれ」…
王はそうおっしゃっております」

「何度言われても無理です。三年で私の寿命は尽きるのです。
どうかそれまで、待ってください」

「そうですか。ならば!」

ずば

「ぐはっ!!」

使者は仙人を剣で刺し貫きました。

「ぐ…ぐぬぬ…おのれ国王!人に命じて私を殺させるとは。ならば私が生まれ変わったら、同じく人に命じて王を殺してやるぞ」

がくっ

仙人は息絶えました。

アジャセ王子の誕生

まさにその夜、王宮ではイダイケ婦人が身ごもりました。喜んだ王は占い師を呼んで、生れてくる子の将来を占わせると、

「王様、男子がお生まれになります。立派な跡取りになりましょう」

「おお!」

「そして…その子は将来王にはむかい、王を殺します」

「な…なに!」

ビンビサーラ国王の頭に、この日殺させた仙人のことがよぎります。まさか…罪を得て生まれてきた子は、余に復讐をするというのか。動揺する王の心。しかし、表面上は平気をよそおいます。

「そのようなことを恐れる私ではない。とにかく跡取りの誕生はめでたい。宴の準備をせよ」

そんな事を言っていましたが、イダイケ王妃のお腹が日に日に大きくなるにつれて、ビンビサーラ王は不安になってきました。

(やはり…これは呪われた子だ。生れさせてはならぬ)

迷った末、ビンビサーラ王はイダイケ王妃に言います。

「その子は呪われた子なのだ。生まれさせるわけにはいかぬ」
「あなた、何を!」
「お前は出産の時高楼に登って、高い所からその子を生み落すのだ」
「そんな…」

イダイケ王妃は恐ろしく思いましたが、断ると王の愛情が他に移ることを恐れ、言われた通り、高楼に登り、高い所から赤ん坊を生み落しました。

「許して!!」

すーーーっ、どさっ。

ほぎゃ、ほぎゃ、ほぎゃ…

赤ん坊は、助かりました。打ちどころがよかったらしく、指を一本ケガしただけでした。

これがアジャセの出生です。アジャセは生まれる前の殺人。さらに両親による子殺しという怨念を背負って生まれてきたのでした。

王と王妃は、わが子を殺そうとしたという罪悪感を背負うことになりました。恐らくアジャセは、両親から、何となく不気味なものを見るように、腫物にさわるように扱われていたことでしょう。

成長したアジャセは、自分の出生にまつわるこれらのいきさつを、悪友ダイバダッタからききました。

こうして、王舎城の悲劇…子が父を殺し、母を幽閉する事件につながっていきます。

内省

法然は「王舎城の悲劇」を繰り返し読むたびに、殺された父の言葉が、思い出されました。

「父を討った敵を恨んではならぬ。
これはひとえに前世の宿業じゃ」

前世の宿業…。非道にも仙人を斬殺したビンビサーラ王。父漆間時国は、明石定明にそんなことをしたのだろうか?「今日のようなことになったのは、私が明石を軽んじたことがそもそもの原因」と父は言っていた。

憎しみの連鎖。

「お前が敵に復讐すれば、今度はその子がまた、
お前を怨みに思って復讐するだろう。
そうなれば、この世は永遠に怨みが尽きることがない」

生まれる前の殺人。そして両親による子殺し。その怨念を背負って生れて来たアジャセ王子が、やがて父殺し、そして母の幽閉という五逆罪を犯すように。

父の歯止めがなかったら、私も明石定明に復讐をしていただろう。そして復讐が復讐を生む、憎しみの連鎖に陥っていただろう。

そうなることを知っていたから。父は私を解き放とうとした。復讐をするなとおっしゃった。だから父の遺言通り、私は仏門に入った。

しかし、父を殺害した明石定明への憎しみが消えることはなかった。

あの時、敵の襲撃がなければ、あの夜さえなかったらと、何度も思い出したことか。全身を焼かれるような苦悩にさいなまれまれたことか。

憎き明石定明を刺し貫き、首をはねる。そうすれば、どんなに清々するかと…

「この憎しみこそが、五逆罪であったのだ」

法然は、内省の中で己の中のむき出しの憎悪と向かい合います。自分の都合のためにわが子まで殺そうとするビンビサーラ王とイダイケ王妃。そして生れながらに抱えた怨念を晴らすように父を殺し、母を幽閉するアジャセ王子。それらは法然自身の姿でもありました。

しかし、わかってはいても、逃れられない。この憎しみから逃れるには、どうしたらいいのか?

次回「凡夫救済」に続きます。

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本日も左大臣光永がお話しました。ありがとうございます。

解説:左大臣光永

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