長州の間者

こんばんは。左大臣光永です。日中、雹が降ってきました!なんと、この時期に雹です。地球はいろいろと怒ってるなあ、狂ってるなぁと実感しました。

さて本日は新選組の第二十回「長州の間者」です。本日も残酷でグロテスクな場面を含みますのでご注意ください。

桂小五郎の刺客

「たのもう」

文久3年7月、壬生浪士組の屯所に四人の客がありました。

「われわれ四名は、長州勤王党に属していたものであるが、議論の相違から脱退してきた。聞けば壬生浪士組は、会津候とともに勤王のために奉公されておられるとのこと。われらと志は同じとお見受け申した。ぜひ我々を壬生浪士組に加えてもらいたい」

壬生 前川邸
壬生 前川邸

四名は、御倉井勢武(みくら・いせたけ)、荒木田左馬之亮(あらきださまのすけ)、越後三郎(えちごさぶろう)、松井竜三郎(まついりゅうざぶろう)といいました。

「うん。それならば、歓迎である」

近藤勇はいとも簡単に受け入れました。島田魁に命じて「今日、四名の志士が増えた。宜しく案内せられよ」と前川の屯所に案内させます。

その背中を見送って近藤は、永倉新八に「油断召されるな」と小声でささやきました。

近藤は四人に国事探偵方の任を与え、門限は自由、出入りは自由とし隊の制服新調料として金子百両まで与えます。たいへんな特別待遇です。

「へへっ、近藤っていう男は案外ちょろいじゃないか。こんなに簡単に入り込めるとは」

「しっ。言動には常に気をつけろ」

四人は長州の間者でした。

桂小五郎は近藤一派がいる限り京都で事を起こすのは難しいと見て、刺客に命じ、近藤一派を暗殺させようとしたのでした。

長州藩邸跡 桂小五郎像
長州藩邸跡 桂小五郎像

しかし近藤ははじめから四人が間者と見破っていました。見破った上で、このまま泳がせておき、長州の不平分子をあぶりだすきっかけにしようと考えてましたが、そうのんびりもしていられない事件が起こります。

祇園一力邸の一夜

9月25日。

御倉井勢武と荒木田左馬之介、そして永倉新八と中村金吾の四人で、公卿・大原重徳(おおはらしげとみ)公のもとを訪れた帰り、四人は祇園の一力邸で飲もうということになります。現在までも続く祇園の老舗です。この夜も一力邸は大入りで、どの座敷もワイワイと賑わっていました。

「どうだい君たち、もう隊の暮らしには慣れたかね」

「はい。皆さんよくしてくださいますので。それにしても永倉さん、こんないい店で…ここ、高いんでしょ」

「ははは。まあ、たまにはいいじゃないか」

などと盛り上がりました。夜12時頃、御倉井勢武と荒木田左馬之介がおもむろに立ち上がります。座敷に残された永倉新八と中村金吾は不審がります。

「永倉さん、あの二人、戻らないですね」

「うむ。厠にしちゃ長いな」

そこで永倉は座敷を出ると、隣の座敷に御蔵と荒木がおり、十人ほどの男たちと何事か話し込んでいるのが見えました。

(ありゃあ長州人だな…)

よくよく聞いていると、殺すとか、今夜やっちまえとか、物騒な言葉が聞こえます。

(こりゃあまずい…)

細切れに聞こえてきた話をつなぐと、一力邸に迷惑がかかるから、店を出たところで殺ってしまおうという話でした。

永倉はそっと座敷に引き上げます。すると御倉と荒木が戻ってきました。

「永倉さん、もう夜がふけてきました。休むとしましょう」

「お、おうおう、そうだな」

永倉はすっと立ち上がり、寝る部屋に向かおうとしますが、

「永倉さん、脇差は仲居に預けていきましょうよ。仲居さん、よろしくお願いします」

御倉井勢武は永倉の脇差をなかば強引に、仲居に預けてしまいます。そして永倉を二階の部屋に案内させます。永倉はおお酔った酔ったと千鳥足を装い、二階に上がり、横になります。見ると、部屋の入り口は一つだけです。

(こりゃあ襲撃されたら逃げ場が無ぇなあ…しかも丸腰とは…剣呑だ)

そう思って横になっているところへ、

「永倉さん」

「ん…?」

すーっと障子が開いて、中村金吾が入ってきます。

「今夜はけして油断しないでください。どうぞ」

中村金吾は永倉の脇差をすっと布団の下に押し込みました。

(少し…心強くなったぞ)

夜中、斎藤一と藤堂平助が見回りに来て、一力邸の外に永倉を呼び出します。

「実は今夜、襲ってしまおうとしていたのだ。しかし永倉くんが同席しておるし、一力邸に迷惑がかかってしまう。必ず明日、御蔵と荒木田の二人を屯所まで連れ帰るように」

「心得た」

永倉はふたたび布団に入ったものの目がさえて眠れませんでした。3時頃、仲居を呼んで酒を持ってこさせ、夜明けまでちびちびと飲み続けました。

翌朝

翌朝、御蔵と荒木田が永倉を迎えにきます。

「永倉さん、昨夜はよく眠れましたか」

「ああよく寝た。君たちは」

「やはり酒がいいですから、よく眠れましたよ。さあ、帰りましょう」

一同は一力邸を出て、四条通を西へ向かいます。二人はおそらく壬生の屯所に着く直前に仕掛けてくる。人通りの多い四条通から南に折れ、細い坊城通りに入ったところ、つまり屯所のすぐ近くで仕掛けてくるはず…

祇園~壬生
祇園~壬生

坊城通り
坊城通り

永倉は、右に左に目を光らせ、神経を集中させます。御蔵、荒木田は今こそ斬りかかろう、だめか。今度こそ、いや、まだまだとやっている内に、永倉の気迫に押されてか、ついに屯所に着くまで仕掛けることができませんでした。

決行

屯所に着くと永倉は近藤に事の次第を報告します。

「やはりあの四人、間者です。祇園で長州人と話していました」

「うん。斎藤くんから話は聞いている。永倉くん、大丈夫だったか」

「私なら平気です。すぐに殺ってしまいましょう」

「うむ。斎藤くん、林くん、沖田くん、藤堂くんを集めてくれ」

御蔵と荒木田のふたりは、壬生前川邸の縁側に床屋を呼び、のんきに髪を整えさせていました。小ざっぱりして、午後はどこかに出かける計画でした。

もみあげはどうしましょう。普通でいい、などと言ってるところに、忍び寄った斎藤一が御蔵の後に立ち、林が荒木田の後ろに立ち、ほぼ同時に、スプウッ…背中から脇差を突き立て、ぐ、ぐぐっ、ずばーーっと胸まで貫通させます。

「ぶ、ぶぶぶぶ、ぶはっ」

二人は腰刀に手を伸ばそうとするも、及ばず、がっくと息絶えました。

「ひ、ひいいいいいーーーーっ!!」

腰を抜かして後ずさりする床屋。

一方、

藤堂平助は沖田総司をつれて長州の間者四人のうちの、残り二人、越後三郎、松井竜三郎の部屋にドカーーッと踏み込みます。しかし、

「やられたっ!!」

すでに窓が突き破られた後でした。ばっと窓の外を見ると、越後と松井が堀を飛び越え、必死に逃げていくのが見えました。

無惨 楠小十郎

その時、

宿舎の中から、かねて怪しいと見られていた楠小十郎(くすのきこじゅうろう)、松永主計(まつながかずえ)両名がタッタッタッターと駆け出します。

両者とも御蔵、荒木田らと同時期に入隊した隊士で、長州に通じているのではないかと見られていました。楠はまだ17歳の若者です。

「待てッ。止まれーーッ」

逃げていく楠・松永の後ろから、追いかける藤堂・沖田・井上。

「ひ、ひっ、ひひいいいーーーっ」

真っ青になって逃げていく楠の後ろから藤堂がガバッと抱き付き、どうと砂煙を上げて両者からみあいながら倒れると、場所は屯所の門前であり、何事かと通行人が立ち止りました。

一方、井上源三郎は松永主計の背中からすぱっと一太刀あびせかけるも、ひ、ひいいいっ…松永はすばしこく、逃げ切られてしまいました。

藤堂は楠を取り押さえます。

「おとなしくしろ」「無実だ、無実だ」「ならなんで逃げた。お前らが長州の間者だってことは、わかってんだ。さあ、近藤さんのとこに来い」「いやだ、いやだあーーっ」

泣きわめく楠を藤堂は引っ張っていきます。

近藤の前に連れてこられた楠は、藤堂に取り押さえられた下でボロボロと涙を流し、こんなのは非道だ。断固、抗議する。私は無実だ。バタバタ、バタバタ抵抗するのを見て近藤は、さすがに17歳の若者であり不憫になってきたところ、カアッとした藤堂が、

「野郎ッ」

言いざま、楠の首をはねてしまいました。

「越後三郎、松井竜三郎脱走。松永主水脱走、御蔵伊勢武、荒木田左馬之亮、楠小十郎断首」

記録にはわずかに、こう記されています。

次回「新選組誕生」です。お楽しみに。本日も左大臣光永がお話しました。ありがとうございます。

解説:左大臣光永