普通選挙運動と原敬の最期

こんにちは。左大臣光永です。

スーパーで釣り銭を受け取る時、店員さんが両手の親指と人差し指でレシートをつまみ、橋をわたすようにして、そのレシートの上に釣り銭をのせて渡してくれました。

コロナ対策として、受け取るのに、手と手が接触しないで済むという仕組みでしょうか。その器用であることに感心しました。

本日は「普通選挙運動と原敬の最期」ということで語ります。

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「日本初の政党内閣」原敬内閣の時、民衆の普通選挙をのぞむ声が高まりました。しかし原敬は一部歩み寄るも、全面的な普通選挙には反対をつらぬきました。

普通選挙運動

1919年(大正8)2月11日は大日本帝国憲法制定30周年にあたりました。

「庶民に選挙権を!」

「われわれは、普通選挙を望む!」

当日、日比谷公園には3000人の学生が集まり、普通選挙をもとめて二重橋までデモ行進を行いました。

大阪でも、京都でも、神戸でも普通選挙をもとめてデモや講演会が開かれました。

米騒動の経験は、民衆にみずからの力を自覚させました。さらに、ロシア革命、ついでドイツ革命が起こったことで、日本でもやれるはずだと意識が高まっていました。

そのあらわれとしての、普通選挙運動でした。

普通選挙運動に対する原の出方

原敬首相はしかし「普通選挙は時期尚早」という判断でした。

1917年(大正6)(10月22日)の日記に、

「将来、民主主義の勃興は、実に恐るべし、是れ余も官僚も同様に心配する所なるが、只官僚は此潮流を遮断せんと欲し、余等は是を激盛せしめずして相当に疎通して大害を起さざらん事を欲するの差あり」(『原敬日記』)

つまり、民主主義なんてとんでもない。だから民衆にある程度歩み寄り、不満がバクハツする(革命が起こる)のを未然におさえようということです。

今日的にはずいぶん傲慢に聞こえますが、当時の政治家としてはそうとうに民衆よりな考え方です。

元老の山県有朋などは「普通選挙が実施されたらわが国は滅亡する」と言っています。

1910年の選挙法改正で選挙資格は直接国税で10円以上おさめている者とされましたが、原はさらに条件を引き下げて、直接国税3円以上としました。これにより有権者の数は143万人から286万人に倍増しました。

また現行の大選挙区制を小選挙区制にあたらめ、議員定数を381議席から466議席にふやしました(目的は政友会の衆議院における発言力をますこと)。

原は元老山県有朋の普通選挙に対する嫌悪感と、民衆からの普通選挙をのぞむ声をふまえ、

・選挙資格としての納税条件の引き下げ
・小選挙区制の導入

という、これらの落とし所をえたのです。これをかしこい現実主義と見るか、単なる問題の先送りと見るか、意見の分かれるところでしょう。

しかし結局は普通選挙には至らなかったわけで…

「平民宰相」のキャッチフレーズで期待されただけあって、民衆には「裏切られた」という気持ちがあったでしょう。

また原は政友会の党勢拡大のためにはなりふり構わず、

満州鉄道や三井財閥と癒着を深めることに力をそそぎ、労働運動やデモクラシー運動が起こると軍隊を出動させ鎮圧しました。

「けっ、平民宰相がきいて呆れラア」
「今までの首相と、なんも変わらんじゃないか」

民心は離れていきます。

汚職事件も、あいついで明るみに出ます。

満鉄疑獄事件、アヘン問題疑獄事件、東京市政をめぐる大小の疑獄事件など、

(疑獄…証拠がふじゅうぶんなため有罪・無罪がはっきりしない事件。多くは贈収賄事件)

民心はさらに原内閣から離れていきました。

凶行

1921年(大正10)11月4日、原敬は政友会近畿大会に出席しようと自動車で東京駅に向かいました。

改札口に近づいたところ、柱の陰から青年が駆け出し、案内にあたっていた駅長の肩をかすめ、短刀で原を刺しました。

原はその場で倒れ、駅長室に運ばれましたが、すでに事切れていました。享年66。

原の最後の大仕事となった、ワシントン会議を控えて8日前のことでした。

犯人は大塚駅の職員、中岡艮一(こんいち)18歳。原敬の強引なやり方に義憤にかられての犯行でした。

政友会の党勢拡大のためにはなりふり構わぬ原のやり方に、世間は失望し、怒っていました。

原の暗殺を報じる新聞の号外売りは「万歳、万歳」と叫んだそうです。

これが所謂「平民宰相」の成れの果てとは皮肉です。

最後に余談ですが、

原の演説は簡潔でスキがなく、しかし声が低く抑揚がないので印象に残りませんでした。

原本人も「演説は嫌いだ」といい、演説のワザを磨こうとは考えませんでした。

それは政治においては政策そのものが大事であり、演説はどうでもよいと考えていたためでしょう。こうしたところにも原敬のリアリストぶりが出ています。

次回「ワシントン会議」に続きます。

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