大正時代の新しい文化・芸術(二)平塚らいてう、伊藤野枝、武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎、永井荷風
先日、奈良に行ってきました。
どこも桜が満開でした。
近鉄線の窓から、佐保川沿いの桜も、平城宮跡の桜、垂仁天皇陵の桜、薬師寺参道の桜もながめられ…あおによし奈良の都のすばらしさを、あらためて実感しました。
本日は「大正時代の新しい文化・芸術(二)」です。
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明治末から大正にかけて、文学・芸術の分野でもさまざまな才能があらわれました。
今日はその中から、平塚らいてう、伊藤野枝、武者小路実篤、志賀直哉、有島武郎、永井荷風について。
平塚らいてう
平塚らいてうは東京出身。1911(明治44)、日本女子大同窓生4人と青踏社をつくり、雑誌『青踏』を創刊しました。
「らいてう」の筆名で、
「元始(げんし)、女性は実に太陽であった。真正の人であった。今、女性は月である。他に依って生き、他の光に依って輝く、病人のような蒼白い顔の月である」(『『青鞜』創刊号における平塚らいふうの文章)
と冒頭に掲げ、反響をよびました。
(以前から「平塚明子(はるこ)」の筆名で小説を書いていたが「らいてふ」を使ったのはこれが初めて)
与謝野晶子、長沼智恵子、伊藤野枝といった女流文学者や女性活動家も『青鞜』の趣旨に賛同し、原稿を書いたり援助しました。
1913年(大正2)2月、神田のキリスト教青年会館で「新しい女講演会」が開かれ1000人の聴衆が集まりました。
「新しい女?何をバカな…」
と、男性の中には反発する者、揶揄する者もありました。が、『青鞜』は多くの女性たちの共感をよび、以後4年6ヶ月の間、52冊刊行されました。
筆者たちは、小説で、エッセイで、思い思いに女性の解放、女性の自立を訴えました。
1920(大正9)には平塚らいてう・市川房枝・奥むめおらが新婦人協会を結成。女性が政治演説を聴くことを禁じた警察法第五条の改正をうったえ、二年後に実現させました。
協会はさらに婦人参政権運動をおしすすめましたが、当の平塚らいてうは体調を崩し、一時、東京郊外の砧村に隠棲しました。
太平洋戦争勃発とともに茨城県小文間村(おもんまむら)に隠棲し、戦後は夫人運動・平和活動にはげみました。
伊藤野枝 女性解放の問題をさらに進めた
伊藤野枝は福岡の貧しい家に生まれ、口減らしのため他家に預けられるも、上京して上野高等女学校に通ううち、英語教師でダダイストの辻潤と思い合うようになります。
しかし、卒業したら郷里に帰って親の決めた相手と結婚させられました。伊藤は新婚生活半年目で家を飛び出し、辻潤と同棲生活に入りました。
夫とはすでに入籍していましたが、後に平塚らいてうの尽力によって、離婚がかないました。
大正2年(1913)伊藤は平塚らいてうらが創設した青踏社に入社。大正4年、雑誌『青踏』の経営と編集権を平塚らいてうから譲渡されました。伊藤は『青踏』の誌上、家族制度を批判し、結婚制度を否定。
辻との関係は冷え始め、やがてアナーキストの大杉栄との関係が始まります。
ただし大杉には妻子も愛人もいて四角関係でしたが、家族制度を否定する伊藤はこだわりませんでした。伊藤は大杉との間に4女1男をもうけます。
関東大震災後の戒厳令下、伊藤は愛人のアナーキスト大杉栄とともに東京憲兵隊大尉甘粕正彦(あまかす まさひこ)らによって捕らえられ、大杉栄とその甥、橘宗一とともに虐殺され、井戸に投げ込まれました。
事件の真相はいまだに謎のままです。
軍法会議は甘粕の単独犯ということにして、黒幕については一切追求しませんでした。
武者小路実篤 『白樺』創刊、ユートピアをめざして「新しき村」主催
仲よきことは美しき哉
君は君 我は我なり、されど仲良き
1910年(明治43)武者小路実篤により同人誌『白樺』創刊。
人道主義・理想主義を掲げ、それまで理想としてきたトルストイを捨てて、「すべての価値は自己から流れ出す。個性を他にして個人に尊厳はない」としました。
以後、武者小路実篤は『白樺』同人のリーダーを約10年間つとめます。その思想は、隣人愛と素朴な農村生活、悪に対しては無抵抗というもので、
『お目出たき人』『世間知らず』『幸福者』『友情』戯曲『その妹』など、武者小路実篤の著作は明るく素朴な楽天主義に貫かれています。
大正7年(1918)頃、宮崎県木城村(きじょうむら)に「新しき村」を築きました。自給自足で階級のないユートピアを目指すものでした。
実篤によると「社会主義的傾向と悪に対する無抵抗主義の社会的表現」だったといいます。
後に埼玉県毛呂山町(もろやままち)に移りながら、実篤自身も大正13年(1924)まで「新しき村」にすみました。
「新しき村」は現在も「一般財団法人 新しき村」として続いています。公式サイトによると、村内生活者13名、村外会員160名だそうです(2021年3月現在)。
志賀直哉 大正・昭和の私小説家の代表
志賀直哉は大正・昭和の私小説家の代表。その作風はロシア文学の影響を受けて内面を深く見つめるもので、たくみな心理描写に特徴があります。反面、社会的な広がりや、テーマ性などは弱いといわれます。
学習院中等科を落第したことで武者小路実篤と同期生になり、文学を志すようになりました。
東京大学英文科を中退し、1910年(明治43)『白樺』創刊に加わり短編『網走まで』を発表。
1912年(大正元年)『母の死と新しい母』『両津順吉』、1913年(大正2)『清兵衛と瓢箪』
1917年(大正6)『城の崎にて』『和解』と短編を発表。
『和解』は長年にわたる父との確執が解けたことを書きました。父とは直哉の結婚問題と、足尾銅山鉱毒事件をめぐる見解の相違から、対立していました。それが、解けたよという話です。
1920年(大正9)『小僧の神様』を発表すると、このタイトルにちなんで、直哉は「小説の神様」とよばれるように。
唯一の長編である『暗夜行路』は1937年(昭和12)完成。出生の秘密に悩む青年、時任謙作が主人公で、直哉自身を反映しています。
有島武郎
有島武郎は札幌農学校卒業後、米国ハーバード大学に入学してヨーロッパ巡歴して帰国。その間、内村鑑三などの影響でクリスチャンになりました。
母校の英語教師をつとめた後、作家活動に入り、
1910年(明治43)『白樺』の創刊に参加。この時キリスト教に決別宣言をしました。
『カインの末裔』(大正6)『生れ出づる悩み』(大正7)、ついで長編『或る女』(大正8)で、人気作家となり、評論『惜しみなく愛は奪う』(大正9)…
有島は労働者階級に同情し、晩年は社会主義に共鳴していきました。
大正11年発表の『宣言一つ』では階級闘争の問題に苦しみながらも、自分がそこに加われない限界を告白。
1922年(大正11)父から譲り受けた北海道小樽・函館間の土地を小作人数十人に無償譲渡しました(有島共生農園・有島農場)。
それは生まれながらに資産階級であることへの引け目からだったでしょう。
しかし有島はしだいに虚無感にとりつかれ、
1923年(大正12)人妻の婦人記者、波多野秋子と軽井沢で心中自殺しました。
永井荷風
永井荷風は東京外国語学校(現東京外語大)に学び、卒業後、フランス、アメリカに外遊。
帰国後、「ふらんす物語」「あめりか物語」をあらわし、その耽美的・浪漫的作風で評判をえます。
1910年(明治43)慶應義塾大学文化教授に就任し、雑誌『三田文学』を創刊。パンの会で谷崎潤一郎を見出しました。
しかし度重なる発禁事件や大逆事件に絶望し、近代日本に背を向けます。
江戸戯作者に自分をなぞらえ、花柳界に入り浸り、そこでの経験をもとに『腕くらべ』『おかめ笹』『つゆのあとさき』などをあらわし、
大正9年、麻布に「偏奇館」と名付けた館を建て、悠々自適な暮らしの中『東綺譚』などをあらわしました。
『断腸亭日乗』は大正6年(1917)から40年あまりにわたる随想です。
次回「大正時代の新しい文化・芸術(三)」に続きます。
左大臣光永の語る「大正通史」youtubeで配信中!
明治から大正へ(明治天皇崩御・大正政変・シーメンス事件)
https://youtu.be/mkr6SYvwe7U
第一次世界大戦の勃発と日本の参戦
https://youtu.be/ct203GKSSAs
対華21ヶ条要求
https://youtu.be/gK0cnzkOnvw
ロシア革命とソヴィエトの成立
https://youtu.be/d7iT26ky4j0
第一次世界大戦 アメリカの参戦
https://youtu.be/Mu6lhHvB0n4
シベリア出兵と米騒動
https://youtu.be/5_-vsFVP1vM
「平民宰相」原敬
https://youtu.be/7MxgFuYT8KA
パリ講和会議とベルサイユ条約
https://youtu.be/xXEK4jipETg
普通選挙運動と原敬の最期
https://youtu.be/eJ1ZJ9ebkf4
ワシントン会議
https://youtu.be/zbu-nAdgUgo
関東大震災
https://youtu.be/mN1cMe7Zkx8
大正時代の社会運動・労働運動
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普通選挙法と治安維持法
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