新選組 第49回「永倉新八 近藤勇と袂を分かつ」

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崩れる結束

近藤勇率いる新選組は、その名も
甲陽鎮撫隊とあらため、
江戸から甲府へ向けて出撃。

甲州勝沼で新政府軍と合戦となりますが、
圧倒的な兵力の前にわずか2時間で敗走。
勝沼の西、鶴瀬へ撤退します。

再度、間道を通って甲州攻めを試みるも、これも失敗。
さらに西の吉野まで撤退します。

「局長!援軍はいつ来るんですか」
「今に来る」
「今にって、いつですか」
「だから、ええい、黙って動け!」

大将の近藤は「今に援軍が来る、援軍が来る」と
言い続けましたが、いつになっても援軍は到着しませんでした。

「いい加減にしてくれっ」
「もう耐えられねえ!」

隊士たちは高まる不満を永倉新八、原田佐之助、
斉藤一らに訴えます。

「今日になっても援軍が来ないなら、
隊長が味方を欺いているということです。
もう我々は従えません。八王子に向かいます」

永倉新八が困り果てて隊士たちに訪ねます。

「では、隊長の命令に背いてお前たちは、
今後どうするつもりなのか」
「会津と合流し、新政府軍と戦います」

「ううむ…」

隊の秩序は、今や完全に崩れていました。
鉄の結束をほこった新選組は、
もはや見る影もありませんでした。

永倉新八は事の次第を近藤勇に報告します。

「というわけです近藤さん。
隊士たちは、もうあなたに従えないと言っています」

「そうか…。俺も、会津を枕に討死の覚悟である。
隊士たちは…ひとまず永倉、原田両名に任せる。
いったん江戸へ戻り、それから合流しよう」

新選組は三々五々、散っていきました。

ふたたび江戸

その後、江戸へ戻った隊士たちは
落合所と定めた大久保主膳(おおくぼしゅぜん)正屋敷へ集まります。

「永倉さん」「おう、島田」
「原田さんも」「なんだ、集まったのはこれだけか?」

「近藤さんは?」
「来ないですね。来れないんじゃないでしょうか」

この日、会合に集まったのは
永倉新八、原田佐之助、島田魁、
矢田賢之助ほか十名。

話し合われた内容は、
会津藩に合流すること、そのための軍資金を
今戸八幡の境内に住む松本良順から300両用立てて
もらうことでした。

ひととおり話が終わった後、
最後の名残に吉原で豪遊となります。

他の隊士たちは、すでに飲み始めていました。
そこへ永倉たちが籠で乗りつけ合流します。

「やあ永倉さん」
「先に、やっちゃってます。へへへ」

馴染みの面々が、顔を赤らめていました。

その夜の宴会はおおいに盛り上がります。
その盛り上がりもようやく一段落ついた頃、
永倉は急にまじめな顔になって、隊士たちに切り出します。

「諸君は新選組を離れて、
これからどうするつもりなのか?」

「俺は…会津に行って戦います」
「俺も、会津に行きます」

「うむ。我々も同じ気持ちだ。どうだろう。
ならば新しい隊を組織して、近藤・土方両名も加えて、
皆で会津に身を投じる、というのは」

「きょ…局長をですか」

「副長はともかく、近藤局長は…なあ」

芹沢鴨のことなど

「局長は諸君に嘘をついた。諸君の信頼を裏切った。
それが許せんという気持ちはわかる。
俺だって同じ気持ちだ。
だが、一度は同志となった我々ではないか。
一朝にして解散というのは、いかにも惜しい。
ここは、俺に任せてくれないか」

「それゃあ、永倉さんがそう言うなら」
「俺たちだってこんな、喧嘩別れみたいなのは
なあ…」
「じゃあ、永倉さんに、お任せします」
「よし、明日、皆で局長のところに行こう」

この時点でまだ、永倉は近藤勇を信じたい気持ちがありました。
しかし同時に、近藤に対する不信感を、誰よりも強く懐いていたのも
永倉でした。

思い返せば五年前の文久三年(1863年)。

初代局長芹沢鴨が暗殺された、あの夜。

永倉は島原角屋で飲み続け、そのまま泊まっていったのでした。
芹沢が立ち去った後、近藤と土方が目配せをした。
その後すぐに、土方は沖田・山南・原田を引きつれて、
角屋をあわただしく立ち去った

…その一部始終を永倉は間近で見ていました。

(近藤勇が、芹沢鴨殺害の指示を出した)

その疑いは、五年の間に、永倉の中で
確信となっていました。

その後、新選組は会津藩預かりとなり、しだいに
羽振りがよくなっていくと近藤は傲慢に
なっていきました。隊士たちを見下すような態度も
取るようになっていきました。゜

試衛館時代からの同志である
山南敬助を切腹させ、あれほど贔屓にしていた
伊東甲子太郎をだまし討ちにして、
御陵衛士一派を壊滅させました。

それでも、永倉は近藤のもとを去りませんでした。

新選組は、同志の集まりである。

ひとえに、それを信じていたからでした。

決裂

翌朝、永倉新八以下の隊士たちは
近藤勇の逗留する和泉橋医学書へ舟で漕ぎつけ、
昨夜の決定を伝えます。

「われら一同、会津へ下り、引き続き
新政府軍と戦うこととなりました。近藤さん、
同志として、我々に加わってくれるでしょうか?」

どんな答えが返ってくるか。
隊士たちが、固唾を飲んで見守ります。

「…そのような決議、同意しかねる」

ざわざわっ…

「ただし、俺の家来として働くのなら、
同意もいたそう」

「なっ…!」「ななっ…!」

隊士たちはカアーーッと怒りに顔を赤くします。
しかしこの時、一番頭に来ていたのは永倉でした。

「家来。家来だと」

永倉は近藤につかみかかります。

「二君に仕えぬのが武士の本懐である!
俺は、あんたの同志になったおぼえはあっても、
家来になった覚えは、一度として無い!!」

バンッ

永倉は畳を蹴って出ていきました。
ああっ、永倉さん、永倉さん。後に続く隊士たち。

近藤は、その場に取り残されました。

もはや、近藤のもとには、土方歳三、
斉藤一をはじめとした数人しか残されていませんでした。[

次回「新選組 第50回「流山の落日」」お楽しみに。

解説:左大臣光永

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