新選組 第13回「大坂力士との乱闘(二)」

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大坂に出張した壬生浪士組は、夕涼みの際、ささいな
きっかけから相撲取りを斬ります。腹を立てた相撲取りたちは、
二三十人集めて、壬生浪士組のいる住吉屋に押し寄せてきました。

まっさきに芹沢鴨が飛び出していきます。

「それっ、隊長に怪我をさせるな!」

楼の上の山南、沖田、永倉、平山らの面々も、
同じく身を躍らせて地上に飛び降り、ジャキン、
ギャキンとそれぞれ、脇差を抜くと、
折から雲間からあらわれ出た月は
煌々と輝き、あたりを照らし出します。

「ケンカや!ケンカや!」

騒ぎが大きくなっていく中、

「やっちまえ!!」

ぶうん

相撲取りは八角棒を大上段に構え、振り下ろすと、
隊士たちはそれぞれ太刀や脇差を青眼にかまえ、
右に、左によけながら、一気に間合いを詰めると、
ざあっと斬りかかり、相撲取りの力まかせの一撃が
ドカーンと空しく地面を叩いたその時、隊士のするどい刃の
切っ先が、ずぶ、ずぶぶとわき腹に食い込み、

「うううーん…」

ドサッ…

相撲取りの巨体は砂埃を立てて、地面に倒れます。

「おのれ!」「やったな」

「やったがどうした」

「もう許さん」

力士たちが力まかせに八角棒を振り下ろすと、
隊士たちは太刀・脇差をふるいます。

いかな屈強な力士たちも実戦経験においては
刀を持った武士にかなうものではなく、
あるいは袈裟懸けに斬られるあり、あるいは血煙を立てて
仰向けに倒れるあり。見かけばかり派手な八角棒も何の役にも立たず、
力士たちはほうほうのていで逃げ去りますが、

その中に格別体格のいい力士が、永倉新八と
やりあっている中、

ボコーーン

八角棒が永蔵のわき腹に命中。

「ぐぶぶ…!」

コロン、コロン、コロン…

思わず取り落とした脇差が地面に転がっていくのを、
なんのと永倉は拾い上げ、間髪を入れず襲い掛かる力士の肩先にザンと叩き込むと、

「ぐおおおお!!」

力士はかなわじと引き退いていきます。

沖田総司は片方の鬢を打たれてつうっと血がにじむも、
傷をものともせず、風車のように剣を振り回して奮戦します。

「ひ…退けッ、退けーーッ」

ほうほうの体で逃げていく力士たち。あわてて追いかけようとする
壬生浪士組を留めて芹沢は、

「追うな。追うな。それより皆は無事か。
沖田くん」

「はいっ」

「永倉くん」

「無事です」

「平山くん」

「大丈夫です」

全員の無事を確かめると、

「よし。飲みなおしだ。
思わぬ邪魔が入ってしまったが、
続けて、飲むのだ」

一同はしばらく飲みなおした後、
八軒屋の宿屋京屋に戻ります。

芹沢は、居残っていた近藤に、
事の次第を報告します。

「……とういうわけだ近藤くん。見かけほどもない連中だった。
安心したまえ。武士の名誉は、守られたのだ」

「芹沢先生…このような騒ぎを起こして、
どうなさるおつもりですか!?」

「どうって、まあ、君のほうで適当に処理しておいてくれ」

「…………」

町奉行に訴える

近藤勇は、とにかくこの一件を大坂西町奉行松平大隈守に
訴え出ます。

「何者か不明であるが、ニ三十人で徒党を組み、
理不尽の無礼を働いたので、やむを得ず、切捨てた。
今夜にも旅籠屋に復讐にくるかもしれんので、
その時は一人残らず斬り捨てるつもりである」

「理不尽の無礼とは、どういうことじゃ。
どのような無礼を働いたのか、まずその点をはっきり申されよ」

「当方はただ敵を無礼打ちにしたから
死体の処理を願い出ているのみである。
それ以上の詮索を受けるような身分の者ではない」

「我ら町方の役務は、市中取締りである。いやしくも人命を失い、
理由もはっきりわからぬでは、役務が立たぬ」

「ならば我々は会津候御預り壬生浪士組であるから、
これ以上詳しいことは、会津候へ照会されよ」

バンッ

畳を蹴って出て行く近藤勇。

喧嘩をふっかけた相撲取りたちは、相手が京都の壬生浪士組なる
命知らずの剣客集団だと後に知り、震え上がりました。

しかし近藤の心中は、複雑なものがありました。

(危ないなあ…芹沢先生の暴走は。
どこかで、誰かが歯止めをかけねばならん。
それができぬのなら…)

近藤の中に、芹沢に対する不信感が
めばえて始めていました。

次回「新選組 第14回「大和屋 打ちこわし」」に続きます。お楽しみに。

本日も左大臣光永がお話いたしました。
ありがとうございます。

解説:左大臣光永

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