薩長同盟

薩長同盟は日本史の中でも、特に人気が高い場面です。押し黙っていた桂小五郎と西郷隆盛の間に坂本龍馬が割って入り、この国の将来を切々と説く。

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ついに西郷・桂は心動かし、薩長同盟が成立した…という筋書きは、熱血漫画的なカッコよさがあり、お涙頂戴の要素もあり、しかも単純で、大衆好みです。

しかしこうした面白すぎる名場面は、後世の創作であることがほとんどです。

長州への処分決まる

慶応元年(1865)11月、幕府は長州藩に対する処分案を作成しました。

・長州藩主(毛利敬親)の隠居
・藩主養子(毛利広封(ひろあつ))の蟄居
・10万石減封

この動きを受けて、薩摩の西郷・大久保らは長州の桂小五郎との京都会談を急ぎました。

薩摩から黒田了介(清隆)が山口へ向かい、桂小五郎を説得します(ただし桂はこれ以前から幕府の目をくらますため木戸寛地と名乗っていました)。

「わかった。西郷と話そう」

薩摩藩邸での会談

慶応元年(1865)12月25日、桂小五郎は品川弥二郎らと下関をたちました。昨年9月の禁門の変以来、長州人は京都に立ち入ることを禁じられていました。なので禁を破っての命がけの上洛でした。

慶応2年(1866)正月8日、伏見まで迎えに来た西郷隆盛・村田新八の案内で、京都ニ本松薩摩藩邸に入ります。

ニ本松薩摩藩邸跡
ニ本松薩摩藩邸跡

その後の薩長同盟成立までの流れを桂小五郎=木戸孝允が坂本龍馬に当てた書簡、薩摩藩士桂久武の日記、長州の支藩岩国藩主・吉川経幹による記録『吉川経幹周旋記(きっかわつねもとしゅうせんき)』からたどると…、

薩摩藩邸で、ついで薩摩藩筆頭家老・小松帯刀邸(近衛家別邸)で、長州側桂小五郎、薩摩川西郷隆盛・小松帯刀というメンツで政治談義が行われた(薩摩藩邸から小松邸に移った日時は不明)。

薩長同盟所縁之地
薩長同盟所縁之地

西郷と小松帯刀の主張は、近々、幕府によって長州への処分が下される。とにかくこれをいったんは受け入れてくれ。後日嫌疑が晴れて長州藩主が上京した際、薩摩藩は長州藩の復権を幕府に嘆願するからと。

しかし桂は、それはおかしいと。すでに長州は罪をつぐなっている。この上どんな処罰も受けるつもりはないと。

議論は平行線をたどり…

ついに薩摩側が折れた。

わかった。幕府からの処分を長州は拒否する。薩摩はそれを黙認し、かつ、長州藩主の復権のため、力を尽くすと。

正月20日、条文がほぼ固まりかけた頃、海援隊の仕事で忙しかった坂本龍馬があらわる。

慶応2年(1866)正月21日、六箇条からなる条文がまとめられた。幕府と戦争になった場合、ならなかった場合、勝った場合、負けそうな場合、細かく想定され、どの場合にも「薩摩が」「長州に」協力することが定められた。

しかし密約のため文章化はされなかった。桂は長州側として一人であったので、後で口約束を反故にされたらたまらない。そこで慶応2年(1866)正月23日づけで、桂は坂本龍馬に条文の内容を記した書簡を送り、裏書きを求めた。

龍馬は桂の求めどおり、裏書きをし、ここに薩長同盟が成立したと。

…ここまでが同時代の史料から読み取れる、薩長同盟成立までの流れです。

本来、一浪人の裏書きなど何の保証にもなりませんが、この場に桂は長州側として一人であったので、誰であろうと第三者の証言があること自体が、重要でした。ふらり現れた坂本龍馬を桂小五郎は政治的に利用したようです。

創作された「薩長同盟」

以上のように、薩長同盟に至る流れはおおまかなことが知れるだけです。密室会議であり、議事録もないため、具体的に何が話されたのか、ほとんどわかりません。

そのため、話盛り放題です。

意地を張る桂・西郷を、おまんら何を言うとるがぜよ。武士の意地とか、そんなこと言うちょる場合か。坂本龍馬が叱りつけ、

「これは薩長二国のためではない。名誉や金のためでもない。この国のためぜよ。お互い、言い分はあろうが、そういった事情はいったん忘れて、心を吐き出して、天下のために話すべきぜよ」

そう言って、両者を和解させたという、お涙ちょうだいの「坂本龍馬伝説」も生まれました。

もちろん作り話です。

桂も西郷も一国を背負ったリーダーです。坂本龍馬に言われるまでもなく、武士の意地とか、そんな低い次元で行動しているわけではありません。

しかし司馬遼太郎氏の小説や大河ドラマの影響で、坂本龍馬が間を取り持ったという話が、あたかも史実のように広まってしまいました。困ったもんです。

条文の大筋は18日にすでに決まっていました。坂本龍馬が両者の間に立って何か働きをしたということは同時代の史料には一切見えません。まあお互い意地はらず、仲良くやんなさいよくらいは言ったかもしれませんが…

次回「寺田屋事件」に続きます。

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教科書で昔ならった、あの出来事。あの人物。ばらばらだった知識が、一本の線でつながります。

解説:左大臣光永