一休宗純の生涯(三)悟りを得る
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北野天満宮の境内に、ネコが住み着いていて、かわいいです。体が小さいので、子供のネコでしょうか。先日見たら、白が二匹と、三毛猫が一匹、天満宮の牛の置物のところにならんで、牛と同じ格好でゆたーーとくつろいでいたので、まるで牛の置物とあわせて四兄弟であるかのようで、かわいかったです。
本日は「一休宗純の生涯」の第三回目です。
前回は一休21歳の時、師の為謙宗為が亡くなり、絶望した一休は瀬田川に身を投げようとするが、すんでのところで引き止められたところまで語りました。
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華叟宗曇との出会い
九死に一生を得た一休は、為謙宗為にかわる新たな師を求めました。
一休は前々から近江堅田の禅僧、華叟宗曇(かそうそうどん)の名をきき、弟子になりたいと思っていました。しかし修行はそうとうに厳しいそうで、いや修行以前に、なかなか弟子を取らないというのです。
それでも、一休は華叟宗曇の住む堅田(かただ)の禅興庵(現 滋賀県大津市堅田祥瑞寺の前身)をたずねました。
時に応永22年(1415)、一休22歳。
「弟子にしてください!」
「うちの修行は簡単なものではない。あきらめなさい」
「あきらめません!」
幾日も、幾日も、一休は禅興庵に華叟宗曇を訪ねました。昼は庵の前で頭を地につけたまま終日平服し、夜は琵琶湖の湖岸につながれた漁船の上で仮寝し、連日、師の入門許可を待ちました。
これは「庭詰の修行」といって、華叟宗曇はわざと冷たく、一休をあしらい、その覚悟を見ているのでした。
庭詰の修行は、禅宗の二代慧可(えか)が達磨大師のもとに弟子入りをこうたが、達磨大師は許可しない。慧可は、門外の雪の中にたたずんで、自分の左の肘を切り取って、これによって覚悟をしめした。それで入門をゆるされたという故事にもとづきます。
雪が降ってきました。寒い。それでも宗純は座り込んで、帰らない。
「ええい。水をぶっかけてこい」
ざばーっ
華叟宗曇は弟子に命じて、一休に水をかけました。
ぽた…ぽた…
凍てつく水をしたたらせながら、しかし一休は、
「弟子にしてください!」
「…うーむ。そこまでされては、断ることもできまい」
華叟宗曇はようやく一休の弟子入りをゆるしました。応永22年(1415)一休22歳の時でした。
生活は、謙翁宗為の許にいた時と同じく、いやそれ以上に貧しいものでした。堅田の町に托鉢に出かけて毎日の食事を得ましたが、食べられない日も多かったです。
京に出ては匂い袋や雛人形を作る内職をしました。寺でも薬草を調合して売り歩くというありさまでした。
寺がボロすぎて夜寝られないため、琵琶湖につないだ漁師の釣り船で寝ることもありました。
しかし一休は貧しさにめげず、修行にはげみました。師の華叟はあくまで厳しく、冷酷なまでの態度でした。
ある時、華叟の指示で一休が薬草を刻んでいました。
「あっ…」
誤って指先を切ってしまいました。一休の鮮血がにじむ。
しかし華叟は心配するどころか、
「なんだお前の指は弱っちいな。話にならん」
そう言って嘲ったと。
今ならブラック寺として叩かれまくること確実です。
しかし華叟の厳しい修行のもと、一休は生涯を禅にささげる覚悟を、より強固なものにしていきます。
一生破屋廃菴居
這裡栄華也不虚一生破屋(はおく)廃菴(はいあん)の居(きょ)
這裡(しゃり)の栄華、また虚しからず
一生をボロ屋や崩れた庵に過ごす。そうした私の栄華も、虚しくはないものだ。
百味飲食一楪裏
淡飯鹿茶属正伝百味の飲食 一楪(いっちょう)の裏(うち)
淡飯(たんめん)鹿茶(そちゃ)は正伝(しょうぼう)に属す『狂雲集』
あらゆる珍味も、茶碗一杯の飯におよばない。
粗末な飯や茶こそ、禅の教えにのっとっているのだから。
悟る
応永25年(1418)一休はすでに華叟のもとで4年をすごし、25歳になっていました。
この頃、一休は華叟から「洞山三頓の棒」(『無門関』第十五則)の公案を課せられて、苦心し続けていました。
中国襄州の洞山(とうざん)という禅僧が師の雲門禅師(うんもんぜんじ)に入門しようとした時、「お前に三頓(60本)の棒を食らわせたい」といきなり言われ、なぜそんなことを言われるのかわからない。次の日、また訪ねて、「私の何が間違っていたんでしょうか?」すると雲門禅師は「この無駄飯喰らいが」と一喝した。そこで洞山はハッと悟ったという話です。
「なぜ洞山は正直に言ったのに怒鳴られたのか?」というのが問題です。
一休もサッパリ意味がわかりませんでした。しかしあるとき、街角で盲法師の語る『平家物語』「祇王」の段を聴いて、一休はハッとしました。
それは、白拍子の祇王が平清盛の寵愛を失い、落飾するくだりでした。
華叟から課せられた公案について通じるところがあり、パッと目の前が開けました。
なぜ開けたのか?「洞山三頓の棒」のエピソードと、平家物語の祇王の出家と、どうつながるのか、現代の我々にはまったくわかりませんが、一休にはすっと2つのエピソードが気持ちよくつながったのでしょうか。
師の華叟は一休の報告をきいて、
「うむ…これよりは、一休と名乗るがよい」
ここに私たちが親しむ「一休宗純」の名が生まれたのでした。一休もこの名を大変気に入って、歌に詠みこみました。
有漏地(うろぢ)より無漏地(むろぢ)へ帰る一休み雨ふらば降れ風ふかば吹け
「有漏地」とは煩悩まみれであること。「無漏地」は煩悩から解き放たれ悟りを開いたこと。煩悩まみれの状態から悟りの境地へと帰っていく、人の一生はその途中で一休みしているようなものだ。雨が降るなら降れ。風が吹くならば吹け。
もう何が起ころうと心配しない。悟りに到る確信を得たドッシリしたものが伝わってきます。
印可事件
同じ年、事件がありました。華叟の弟子の華養が、華叟からもらった書を印可状と勘違いして、自慢したのです。
なんと浅はかなヤツじゃ!あれはただ仏語を与えたもの。印可状とは違う!デていけ!まあまあ、和尚だれでも間違いはあります…一休の取りなしでその場はおさまりましたが、その後も印可状をめぐるトラブルは一休のまわりにつきまとうことになります。
大悟
応永27年(1420)5月20日の夜、一休はいつものように琵琶湖の湖岸につないだ舟の上で座禅していました。
深い闇の中、どぶんどぶんと琵琶湖の波音だけがかすかに響く。舟がゆれる。厚い雲は覆いかぶさるようで。まわりの大自然と自分が一つになって溶け合うような。我を忘れた無我一如の境地。
その時、
闇の中で烏が一声、鳴きました。
この瞬間、一休は心身脱落して、大悟の境地に達しました。
なんという幸福!
あらゆるのものがこのままでよい。
このままで、あらゆるものが救われている!
一休は喜んで師の華叟のもとに飛んでいき、報告すると、
「それは羅漢の悟りといって小さな悟りだ」
師の応えは冷淡でした。しかし一休は言いました。
「ならば羅漢で結構」
「うむ。それでこそ大きな悟りだ」
悟りの大小にとらわれないことこそ、大きな悟りだと、師の華叟も認めました。
一休は悟りをひらいた心境を一篇の偈(げ)にあらわし、これを師の華叟に提出しました。
偈…仏の教えなどを詩にあらわしたもの。頌(じゅ)。偈頌(げじゅ)とも。
十年以前識情心
瞋恚豪機在即今
鴉笑出塵羅漢果
昭陽日影玉顔吟十年以前 識情(しきじょう)の心
瞋恚(しんい)豪機(ごうき)即今(そっこん)に在り
鴉は笑ふ 出塵(しゅつじん)の羅漢(らかん)か
昭陽日影(しょうようにちえい) 玉顔(ぎょくがん)吟ず
十年来、我執に迷い、
怒りや傲慢さにあふれて今に至った
しかし鴉の一声をきいて大悟してみれば
照り輝く朝日の中で、私は晴れやかな顔で詩を吟ずることができる。
印可状受け取らず
一休が大悟に至ったので、師の華叟は一休に印可状を与えることにしました。
その中で、華叟は一休のことを「なんぢはわが一子なり」といい、「臨在の正法もし地に堕ちなば、なんぢ出世し来つてこれを扶起(ふき)せよ」とまで言っています。
しかし、師の思いのこもった印可状を、一休は受け取りませんでした。無欲・清貧をよしとし、世俗の立身出世を嫌う一休からすると、印可状などは自分のもっとも嫌うものと思えたのかもしれません。実際、この後も一休は生涯誰からもどこの寺からも印可状を受け取らず、印可制度そのものを否定し続けました。
一休が印可状を受け取らないので、華叟は、困ってしまいました。
(わしの命とて長くはない。死んだ後、一休にちゃんと印可状がわたるようにしておかないと)
華叟は腰痛をわずらっていましたが、都に上り、信頼する華林宗橘(かりんそうきつ)夫人に印可状を託しました。わしが死んだら、これを一休に与えてくれと。温かい、師の気遣いでした。
次回「一休宗純(四)狂雲子一休」に続きます。
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