蘇我倉山田石川麻呂の粛清

蘇我日向の讒言

649年(大化5年)、
蘇我日向(そがのひむか)が中大兄皇子に讒言します。

「私の異母兄の蘇我倉山田石川麻呂は、
皇太子殿下が海岸で遊んでいらっしゃるところを斬りかかって、
殺害しようとしておりますぞ。遠からず謀反を起こすでしょう」

乙巳の変の時、上表文を読む役を担当した
あの蘇我倉山田石川麻呂です。中大兄は「まさか」と思います。

蘇我石川麻呂
【蘇我石川麻呂】

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「どう思う鎌足。あの小心者の石川麻呂が
我に背くなどあり得るかな」

「いやいや殿下、小心者なればこそ、
追い詰められれば何をしでかすか知れたものではありませぬぞ」

「うむ。それも一理ある」

蘇我石川麻呂 山田寺へ

中大兄は孝徳天皇に蘇我倉山田石川麻呂謀反の件を
奏上します。

孝徳天皇は蘇我倉山田石川麻呂の舘に使いを差し向け、
確かめさせます。

「蘇我倉山田石川麻呂殿、
貴殿にご謀反の疑いがかかっておる。
申し開きたきことがあれば述べられよ」

「御返答は、帝の御前で、じかに
申し上げましょう」

しかし、石川麻呂はあらわれません。
再度遣いをやりますが、

「御返答は、帝の御前で、じかに
申し上げましょう」

同じ答えを繰り返すばかりでした。

そこで孝徳天皇は軍勢を遣わし、
石川麻呂の舘を包囲させます。

石川麻呂は二人の息子たちと共に
山田寺に逃げこみます。

山田寺
【山田寺】

息子たちは「追手を蹴散らしましょう」と息巻きますが、
石川麻呂は許しませんでした。

蘇我石川麻呂 自害

石川麻呂は山田寺の僧たちと息子たちを前に、言います。

「臣下たる者がどうして君に謀反を企てようか。
今、無実の罪に問われた私だが、あの世へは
変わらぬ帝への忠誠心を持って赴きたいと思っている。
寺に来たのは、やすらかに最期を迎えるためだ」

石川麻呂は言い終わると仏殿の扉を開き、

「未来永劫、けしてわが君のことを恨み奉りません」

ワーーッ、ワーーッ

鬨の声とともに天皇方の軍勢が山田寺を取り囲み
ドカーーッと扉を蹴破って押し入ると、
御堂の中はシーンと静まり返っていました。

月明かりに照らされて、
鴨井にぶらさがっている、いくつかのカタマリが見えました。

「うっ…!」

すでに蘇我石川麻呂は
妻子ともども首を吊っていました。

「ふん、やはりやましい所があったのだな」

ぶんと太刀を振って縄を切ると
ゴトリと石川麻呂の死体は床に落ちます。

首と胴体を太刀ですぷっと斬り離し、その首を
太刀の切っ先に高く差し上げ、

「逆臣蘇我石川麻呂を討ち取ったぞー」と叫びました。

無実の罪

その後、使者を遣わして蘇我石川麻呂の舘の私財を
すべて没収します。

その中に、良い書物には「これは皇太子さまの書」とあり、良い宝の上には「これは皇太子さまのもの」とありました。

中大兄はその報告を受けて、

「では、石川麻呂は裏切っていなかったのか!
我は無実の者を、死に追いやってしまったのか!
なんということじゃ。鎌足!鎌足!」

「皇太子殿下、落ち着いてください。皇太子殿下にはこの
鎌足がついております。何も心配はいりません」

そんなやり取りがあったかどうかはわかりませんが…

遠智娘の死

中大兄皇子の妻遠智娘(おちのいらつめ)は蘇我石川麻呂の娘です。
遠智娘にとっては父が夫に殺されたようなものです。

遠智娘
【遠智娘】

「あああ父上!父上!」

遠智娘は泣き叫び、食事も喉を通らなくなり、
ついに死に至りました。

中大兄は、まさか妻が死んでしまうとまで思わなかったようで、たいそう嘆き悲しみました。悲しむ中大兄に、臣下の者が歌を奉ります。

山川に 鴛鴦(おし)二つ居て 偶ひよく 偶(たぐ)へる妹(いも)を 誰か率(い)にけむ

(山川にオシドリが二羽いて連れ添っているが、そのように連れ添っている片割れを、誰が連れ去ったのだろうか)

本毎(もとごと)に 花は咲けども 何とかも 愛(うつく)し妹(いも)が また咲き出来(でこ)ぬ

(株ごとに花は咲いているのに、どうして愛しい妻はふたたび姿を見せてはくれないのか)

中大兄は涙にくれながら「よい歌だな。悲しい歌だな」と言い、琴にあわせて歌わせ、歌を詠んだ者に褒美を取らせました。

中大兄と遠智娘の間に生まれた
鵜野讃良皇女(うののさららのひめみこ)…後の持統天皇は
この年5歳です。

讃良にとっては、父が母を殺したようなものです。
讃良はそれをどんな気持ちで受け止めていたか…
そういう記録は残されていませんが、
想像するに余りあります。

≫次の章「有馬皇子の変」

解説:左大臣光永

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