日蓮の生涯(二)『立正安国論』

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こんにちは。左大臣光永です。週末のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 私は昨日、東京多摩で「日蓮と一遍」というテーマでお話してまいりました。

だいぶリハーサルをしたのですが、録音を聴き返すと 何か所か年号などを言い間違えており、うーん修行が足らんなァと実感しました。 しかしお客様からは
「鎌倉には何度も行ってますが、こういう話が あったことは、始めて知りました」と嬉しい反応をいただきました。

次回は7/16(土)静岡にて「声に出して読む 小倉百人一首」という内容で お話します。会場は静岡駅から徒歩10分のマイホテル竜宮です。 静岡近郊の方はぜひ聴きにいらしてください。
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さて本日のメルマガは、「日蓮の生涯(二)『立正安国論』」です。
(先日の6/24多摩のライブ録音です)

▼音声が再生されます▼

http://roudoku-data.sakura.ne.jp/mailvoice/Nichiren02.mp3

京都本能寺・日蓮像
京都本能寺・日蓮像

鎌倉の日蓮

建長5年(1253)32歳の日蓮は、ふたたび鎌倉に出ます。

鎌倉の東部・名越の松葉ヶ谷(まつばがやつ)に庵を結び生活を始めました。名越は名越切通があり、木々がうっそうと繁った所です。日蓮はたびたび名越の山に登り、大音声に南無妙法蓮華経を唱えました。

一年たち、二年たつうちには弟子も増えていきます。

この間、また日蓮は日々、小町通りに出て、辻説法を行いました。

小町通り・日蓮辻説法跡
小町大路・日蓮辻説法跡

小町通り・日蓮辻説法跡
小町大路・日蓮辻説法跡

若宮大路の東を並行して走る小町大路の中ほどに、「日蓮辻説法跡」の碑が立っています。日蓮の説法は、念仏や禅を厳しく批判し、矛盾を説く「折伏(しゃくぶく)」とう激しいやり方です。

「みなさん、法華経を信じなさい。飢饉や災害、こうしたことは、念仏や禅といった間違ったことを信じるから起こるのです。今こそ、正法である法華経を信じなさい。南無妙法蓮華経」

「なにを言ってやがる」

「うっとうしいヤツだ」

ゴチン、ガチン

石や瓦を投げつけられることもありました。しかし、迫害こそ法華経の正しさの証と、日蓮の説法はいよいよ激しさを増します。

一方で、日蓮は女性や弱い者にはとても優しく、思いやり深く接しました。そのため、日蓮には女性のファンが多くつきました。

「日蓮さま、今日もせいが出ますね。はい、干し柿をどうぞ」

「やや、いつもありがとうございます。それで、法華経を信じる気になりましたかな」

「ごめんなさいね日蓮さま、うちは念仏信徒なんです」

「いけませんな。いや、あなたがではない。まだまだ日蓮の、熱意が足らんということです。南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!」 

そんな場面もあったかもしれませんね。

立正安国論

この頃、天変地異が相次ぎます。地震、飢饉、干ばつ、疫病の流行。京都でも鎌倉でも人がバタバタ死に、人々は不安におびえます。1255年には京都と鎌倉で「赤もざ」というはしかのような病が流行し、執権北条時頼もかかってしまいます。その後も、大地が裂けるほどの地震が延々と続き、暴風、豪雨、洪水が起こり、さんざんでした。

「今こそ、世間に警告すべき時」

日蓮は考えます。これは人々が念仏や禅といった間違ったものを信じているからだ。今こそ正法である法華経を世に説く必要がある。しかし今までのように辻説法をしていては、間に合わない。為政者に法華経を説き、まず改宗させる。それから、世の中全体に法華経の教えを広めようと決めました。

日蓮は正嘉二年(1258年)から三年間、駿河蒲原の実相寺の経藏にこもり、仏典・文献に読みふけります。今ある天変地異はなぜ起こっているのか?法華経を信じないことがいかに恐ろしいか、その文献的裏付けを取るための勉強でした。

こうして書かれたのが、正元元年(1259)『守護国家論』翌正元二年(1260)『災難対治抄』です。さまざまな天変地異が相次ぐのは人々が法華経を信じず、念仏という邪法を信じているからとして、法然の『選択本願念仏集』を名指しで非難しました。

そして文応年(1260)7月16日、万を期して完成させた『立正安国論』を、幕府の役人・宿屋光則を通して前執権・北条時頼に献上します。

「こっ…これは!!」

「禅宗と、念仏宗はやめるべきです。でなければ、外国の侵略を招き、国内では内乱が起こりますぞ。これを前執権殿にお伝えください」

『立正安国論』その内容は、主人と客の問答形式で進んでいきます。客がある屋敷を訪ねて来て、宿の主人に質問することから話が始まります。なぜこの頃世の中でさまざまな災害が続くのか。それに対して主人は、それは人々が間違ったものを崇めているからですと説くのです。そして法然の『選択本願念仏集』を名指しで非難するに至ります。客が北条時頼で、主人が日蓮です。そして会話をすすめるうちに、客である北条時頼が納得して、ついには改宗する、という内容です。

不審なことに、『立正安国論』では浄土宗だけが攻撃の対象となり、禅宗については一言も触れられていません。これは、時頼が禅宗に深く帰依しているのを知って、日蓮はあえて禅宗についての言及を避けたと思われます。

宿屋光則を通じて『立正安国論』は北条時頼に(おそらく)届けられましたが、無視されました。国家の指導者である北条時頼としては特定の宗教に肩入れすることも特定の宗教を攻撃することも、できない立場でした。無視する以外なかったのです。

時頼自身は禅宗に帰依していましたが、だからといって世の中に禅宗を強制したりしませんでした。時頼は宗教においてはあくまで寛容で、公平な立場を心掛けていました。

北条時頼が築いた建長寺
北条時頼が築いた建長寺

明月院 北条時頼の墓
明月院 北条時頼の墓

だからこそ、浄土宗という特定の宗派を攻撃する日蓮の意見を、時頼は容れるわけにはいきませんでした。黙殺するしか、なかったんです。

「まあ、それはそうだろうな…」

日蓮も時頼の立場を理解してか、時頼に対しては好意的なことを書いています。

ちなみに、外国の侵略と内乱を招くと言った日蓮の予言は、結果として当たります。外国の侵略としては文永11年(1274)・弘安4年(1281)二度のモンゴル襲来が起こり、内乱としては文永9年(1272年)北条氏の内部抗争「二月騒動」が起こっています。

松葉ヶ谷法難

北条時頼の件はそれですみましたが、名指しで非難された念仏教徒は黙っていませんでした。

「なんなんだあの日蓮という坊主は!」

「常日頃から辻説法でわれら念仏教徒を誹謗し、
あげくに最明寺入道殿(北条時頼)に我等の悪口を奉ったというではないか」

「日蓮、許すまじ!!」

しかしまともに議論を挑んでも日蓮にすぐに論破されています。ぐぬぬと怒った念仏教徒たちは、執権北条長時の父・極楽寺入道重時に頼ることにしました。極楽寺入道重時は熱心な念仏教徒でした。

「よし、後のことは心配ないから、やってしまえ!」

文応元年(1260)8月27日。夜の闇にまぎれて念仏教徒たちは日蓮の松葉谷の庵に押し寄せます。

安国論寺
安国論寺

「それっ!」

ゴオッ。ゴオオーーッ。

松明が次々と、庵の中に投げ込まれました。

「日蓮さま、お逃げください」

「ぐ、ぐぬう念仏教徒らめ!」

「日蓮、そこにいたか!」

「日蓮さま、お逃げくだされ」

キン、カン、キキーーーン

ごおっ。燃え上がる日蓮の庵。

日蓮は命からがら、裏山に逃げ出します。

安国論寺・松葉ヶ谷日蓮上人遺蹟
安国論寺・松葉ヶ谷日蓮上人遺蹟

「ああ大変なことに…いやいや、この程度の迫害は、もとより覚悟の上…ぬ?」

ききっ、きっ

見ると、白い猿がいました。

「もしやお前は、比叡山山王権現の使い!私を導いてくれるのか」

ききっ…

安国論寺の裏山
安国論寺の裏山

こうして日蓮は、山王権現の使いたる白猿に導かれ、松葉ヶ谷裏山(現安国論寺)から、名越の尾根づたいに逗子に抜けて、法性寺裏山の岩窟に隠れたと伝えられます。

ひとまず難は切り抜けたものの、これ以上鎌倉にいるのは危ないので、門人の富木五郎胤継をたよって、下総に逃れます。

次回「伊豆流罪と小松原法難」です。お楽しみに。

講演会と商品のお知らせ

7/16(土)静岡にて「声に出して読む 小倉百人一首」と題してお話します。
百人一首の一番から十番までを、歌の意味、歌人の経歴、歌の詠まれた
歴史的背景などを含めて、楽しくお話します。また会場の皆さまとともに
声を出して歌を朗読しますので、難しいことは抜きにして、
声を出す気持ちよさが味わえます。体もシャキンとします!
会場は静岡駅から徒歩10分のマイホテル竜宮です。
静岡近郊の方はぜひ聴きにいらしてください。
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解説:左大臣光永

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