橘奈良麻呂の変

藤原仲麻呂 権力をのばす

藤原仲麻呂は孝謙天皇の絶大な信頼の下、飛ぶ鳥を落とす勢いで出世を重ねていきます。参議から大納言に上がり、さらに皇太后のために新設された紫微中台の長官として就任。もはや藤原仲麻呂に逆らえる者はいませんでした。

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一方、聖武天皇の時代にはあれほど重く用いられていた橘諸兄…奈良麻呂の父は、日に日に落ち目になっていきます。

「上皇さま…私よりも仲麻呂を信頼されるのですか…」

橘諸兄の失脚

755年11月のある夜、諸兄の館で宴会が開かれていました。しかし世は藤原仲麻呂の全盛期。誰もかれも、浮かない顔をしています。その上、聖武上皇が御病気中でした。

お酒がまわってきた橘諸兄、つい口をすべらせます。

(……)

ざわざわっ…

周囲はヒヤリとします。何を言ったか、その発言内容は伝わっていませんが、なにか朝廷を悪く言うような言葉でした。

(確かに聞いたぞ…)

諸兄に仕えていた家司(けいし 職員)である左味宮守(さみのみやもり)は、朝廷に主人の非を訴えます。

「我が主人諸兄は、酒の席で不敬な発言をしました。
これは朝廷に対する反逆です」

しかし聖武上皇は…さすがに愚かな君主ではありませんでした。長年朝廷につくしてきた諸兄を、そう簡単に退けるようなことはなさいませんでした。

「しょせん酒の上の言葉であろう。
そう大げさにすることでも無い」

聖武上皇はこうおっしゃり諸兄をお咎めになりませんでした。しかし、諸兄はすぐに辞職を願い出ます。長男・奈良麻呂は驚きます。

「なぜです父上!上皇さまはお咎めなさらないと
おっしゃっているではありませぬか」

「奈良麻呂よ。そういう問題では無いのだ。
酒の上とはいえ、付け入る隙を与えるような言葉を、
つい漏らしてしまった。その甘さを、父は恥じるのだ」

ついに諸兄は辞職し、翌年の757年、失意のうちに亡くなりました。

橘奈良麻呂の変

(仲麻呂。父の敵。許さん)

諸兄の子奈良麻呂は聖武天皇の時代の745年頃から反藤原勢力を集めていましたが、父諸兄が藤原仲麻呂によって失脚させられるに至って、ついに決意します。

「これ以上待てぬ。仲麻呂は増長する一方だ。
今こそ立ち上がるのだ」

しかし、謀反を起こすのに十数年の計画期間は長すぎました。謀反などというものはスピード勝負です。奈良麻呂にはスピードが欠けていました。

ぐずぐずしている内に、恐れをなした者が、敵である仲麻呂方に密告し、小野東人(おののあずまんど)が参考人として呼び出さます。

発覚した奈良麻呂の計画

「さあ喋れ!喋ればラクになるぞ!」
「ぎゃああああああぁぁ」

小野東人は激しい拷問の末、一切を自白してしまいます。自白によると奈良麻呂の計画は、大胆かつ周到なものでした。

まず紫微内相の藤原仲麻呂を殺害。仲麻呂と結びつきの強い皇太子大炊王(おおいおう)を廃し、光明皇后の宮殿から玉璽と駅鈴(宿所の行き来が自由にできるための証明となる鈴)を奪い、孝謙天皇を廃して奈良麻呂に都合のい道祖王(ふなどおう)か安宿王(あすかべおう)か黄文王(きぶみおう)のいずれかを天皇に立てるというものでした。

道祖王、安宿王、黄文王
【道祖王、安宿王、黄文王】

知らせを受けた孝謙天皇は、わなわなと怒りにふるえます。

「すぐに奈良麻呂を、捕えなさい!!」

すぐさま橘奈良麻呂の館に捕縛の役人が押し寄せ、館を取り囲みます。

757年7月、橘奈良麻呂以下、事件に関与した440名が捕えられます。逮捕者への尋問・拷問は熾烈をきわめ、途中で絶命する者もありました。

拷問の中、奈良麻呂は叫びます。

「東大寺の造営。あんなものが何になるのだ。
飢え苦しむ人民を、さらに苦しめるだけでは無いか。
政治がなっていないから、正そうとしたのだ」

奈良麻呂の最期について詳しいことはわかりませんが、拷問の末に殺されたと思われます。

逮捕された者の中には奈良麻呂と何の関係も無い者も多数ふくまれていました。この事件により、藤原氏は反対勢力を一掃、いよいよ独裁的な地位を占めることになります。

(ふふ。これでワシの天下よ)

ほくそ笑む藤原仲麻呂。しかし仲麻呂の栄光も、この後すぐに潰えることとなります。

つづき 藤原仲麻呂の乱

解説:左大臣光永

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