不評を買う頼家

線引き地図事件

さて北条政子はじめ御家人たちは、将軍源頼家が
訴訟を行う権利をうばい、将軍の権力を骨抜きにしましたが、
さすがに何もさせないでは不満が出るだろうと、
政子は最後の決定だけは頼家にやらせることにします。

しかし、このことが、とんでも事態を招きます。

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1200年(正治二年)、陸奥国葛岡郡新熊野(いまぐまの)神社が、神社の境界争いをして、最終判定を将軍家の御前で行ってもらうこととなりました。頼家の判断力の見せ所です。

しかし頼家は興味なさそ~に、双方の言い分を聞くと、やおら立ち上がり、地図の真ん中につーーと一本線を引きます。「これが境界じゃ」「は、あの、将軍さま、これは、いったい」「これが境界じゃと言っておろう。領土の広い狭いは運しだいぞ。はははは」と笑いました。

ああと政子は頭を抱えます。

城長茂の決起

頼家のこうしたでたらめさに、腹を立てる御家人が多くありました。

城四郎長茂は、もとは平家に従い、木曾義仲と横田河原の合戦で戦い敗れたことで有名です。義仲に敗れた後は阿賀野川流域に潜んでいました。義仲と戦ったのだからもとは平家方です。頼朝の敵です。しかし梶原景時のとりなしによって、奥州合戦の際、ようやく許されて奥州攻めに加わりました。以後、幕府の御家人となっていました。

「もともと敵であった俺を御家人とされたのは
ひとえに梶原殿のとりなしのおかげだ。
頼家は、その梶原殿を攻め滅ぼした。許せぬ。
あんなもの、将軍とは認められぬ」

怒りをたかぶらせた城四郎長茂は京都にのぼり後鳥羽上皇の仙洞御所に押し入ります。後鳥羽上皇に頼家追討の宣旨を出してもらいおうと考えたのです。しかし、後鳥羽上皇は「そんなことはできん」「くっ…」仕方なく仙洞御所を立ち去る城四郎長茂。

「それっ。謀反人城長茂を追討せよ」

たちまち後鳥羽上皇は鎌倉に院宣を下し、小山朝政(おやまともまさ)が派遣されてきます。城四郎長茂は吉野山にひそんでいた所、捕えられ、斬られました。熊野信仰に熱心で、討たれた時はすでに出家していたと伝えられます。

安達景盛の妻を奪う

さらに頼家の暴走は続きます。

ある時頼家が側近たちを集めて、酒を飲んでいました。

「ああ…つまらん。将軍といっても、何一つは好きにならぬ。
こうやって酒を飲み、いたずらに生をもてあそぶのみではないか。
せめて何か面白い余興でもないかのう」

「そういえば将軍さま、安達景盛の妻がたいそう美人だそうですよ」
「なに、美人とな」
「景盛殿は、いつも自慢してます」
「ほほう、よいことを聞いた。すぐに安達景盛の妻をさらって来い」
「え、そんなこと、よろしいんですか」
「余が許可する」

頼家配下の者たちはほっかむりを巻いて安達景盛の館に忍び込み、妻が寝ているところへばっと乱入し、あれと叫ぶ妻にお構いなく、担ぎ上げて、頼家のもとに運んできます。

「ほうほう、これはまことに美しい。景盛のやつ、余に内緒でこんな美しい女をめとりおって。これ、名は何と申す。もそっと寄れ」「やめてください。帰してください」「おうおう、その抵抗するところが、また何ともいえんのう」

などと、ついに手篭めにしてしまいます。

これを知って安達景盛は怒り狂い、郎党たちを差し向けて妻を奪い返します。

「なに、女が奪い返された?」

激怒する頼家。

「女を奪い返すとは許しがたい。安達景盛を討伐せよ」

すでに軍勢を集めつつあったところに、この騒ぎをききつけた政子がかけつけます。

「頼家。お前は何を考えているのか。安達殿は父頼朝公旗揚げ
以来の忠臣。それをお前は辱めて、ああ情けない口惜しい」

「わかりました。母上がそこまでおっしゃるなら」

頼家もようやく矛をおさめたという話が『吾妻鏡』に記されています。

ただし『吾妻鏡』は北条氏の立場で書かれており、将軍家のことは基本的に悪く書いてあります。この事件の記述そのものが、頼家を悪く見せるための創作とも言われています。

蹴鞠に興じる頼家

1202年(建仁二年)頼家は征夷大将軍に任じられます。しかし依然として政治の実権は有力御家人13人衆が握っており、何も自由になりませんでした。

「ふん、ふん。もう政治など、どうでもよいわ」

頼家は政治に対する興味をしだいに失っていきます。かわって頼家が没頭したのが蹴鞠でした。京都の飛鳥井流蹴鞠の祖である飛鳥井雅経を師として、熱心に練習しました。政務など、ほったらかしでした。

御家人たちの心は頼家から離れていきます。あんな道楽息子を鎌倉殿と認められるか。頼朝公とはえらい違いだと。政子は、ああと頭を抱えます。

そんな中、決断の時は、突然やってきました。

つづき 比企能員の変

解説:左大臣光永

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