民衆を導く行基

その頃平城京では辻辻で行基が仏教の教えを説いていました。ワイワイと人だかりができている中、行基が話し始めます。

近鉄奈良駅の行基像
近鉄奈良駅の行基像

「えー、みなさんね、人間何が悪いって執着心。
これは毒ですな。たとえばね、隣ではいい食事をしている。
いい衣を着ている。それに比べてうちは何。
亭主の稼ぎが悪いせいだわ。キーッ。
そんなこと言ってたらね、キリが無いんです。
だから執着心。スパッと捨てちゃって。旦那さんいたわってあげたらいいじゃないですか。ね、そこの奥さん、いいことありますよ」

そんな感じだったかわかりませんが、なかなか面白い坊さんだと、人気が上がっていきます。

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行基 その出自

行基は河内国大鳥郡の裕福な豪族の出身です。父は百済から渡来した王仁(わに)博士の子孫にあたる高志氏(こしし)だと言われます。15歳の時、原因不明の出家をします。

当代一流の高僧義淵・道昭について仏教の教えを学びました。特に道昭はかの玄奘から直接教えを受けた人物です。

はじめは寺で貴族相手に教えを説いていた行基ですが、矛盾を感じ始めたようです。

「仏の教えは貴族や裕福な人のためだけのものでは無い。
一番仏の教えを必要としているのは庶民だ。
今も多くの人びとが飢え苦しんでいる。
俺は、寺から出て、街路や村の辻で、仏の教えを伝えるのだ」

民衆の支持を集める行基

当時、税として治める諸国の産物は庶民が直接都へ出向いて納めなければいけませんでした。都へ向かう途中で力尽きて餓死したり、都へついたものの帰りの旅費が無く、都で浮浪者になる者も多かったのです。

そこで行基は、彼らを収容するための布施屋を作りました。また薬師寺で学んだ土木技術の知識を活かして、各地に橋をかけたり、池や溝を掘ったり、道路を築いたりしました。

「ありがてえ。行基菩薩さま、行基菩薩さま」

民衆は行基を「菩薩」とあがめました。松尾芭蕉の『おくのほそ道』に、こう書かれています。

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栗という文字は西の木と書て、西方浄土に便ありと、
行基菩薩の一生杖にも柱にも此木を用給ふとかや。
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行基は仏教の教えを説きながら近畿を中心に各地をまわり、先々に道場が建てられ、その数四十九院におよびました。行基を慕い、つきしたがう者の数は1000名にのぼりました。

朝廷の対応

こうなると、朝廷も見逃すことができなくなります。

「行基なる僧が民衆を扇動しています。行基に感化された民衆は
仕事を放棄し、まともに税をおさめません」

「ぐぬぬ。どうにかせねば」

バカラッ、バカラッ、バカラッ

役人が行基一行のもとに駆けつけます。

「これ!解散解散!こんな集会は、許さんぞーッ」

しかし民衆は、行基菩薩の熱狂的な信者です。

「行基さまをお守りしろ」
「お役人なんか、私たちに何をしてくれたんよ」

ヒュンヒュンと石を投げつけます。

「ちょ、やめ…やめんかっ」

こんなふうに、行基の活動を邪魔しようとする朝廷側の動きは、いつも阻止されてしまいました。

大仏づくり

こうなると、朝廷も考えます。

「行基と信者たちを弾圧するのは得策ではない。
それに思ったほど反社会的な活動をしているわけでもないようだ。
あの結束力をいい方に利用できないものか」

朝廷は行基と信者たちへの弾圧をゆるめ、行基の指導の下、信者たちを土木事業に従事させるなどの策に切り替えていきました。

743年(天平15年)10月15日、聖武天皇は盧舎那仏造営の詔を発します。そして行基を招いて、おっしゃいました。

「行基殿、私は大仏を造りたいのだ。
国じゅうの銅を溶かして大仏を造り、
山を削って大仏殿を造るのだ
貴族も民衆も、御仏の下に力をあわせるのだ。力を貸してほしい」

「わかりました。協力いたしましょう」

こうして行基は信者たちを率いて大仏造営のためのお金や資材を 集めてまわり、僧として最高の位「大僧正」を授けられます。

「やれやれ、弾圧されていたのが
一転して大僧正さまか。わしはこういうのは性にあわんのだがなあ」

行基は、立派な袈裟をまとった自分をこう、見ながら、そんなことをつぶやいたかもしれませんね。

つづき 大仏建立

解説:左大臣光永

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